東京の墨田区には歴史と創造性に溢れる建築物が多いのだが、この旧安田庭園と両国公会堂は出色の芸術性を醸し出している。
どうですかこの風景。日本庭園にしドーム建築という異形のカップリング。ふつうこれだけの日本庭園であれば当然、日本人の感覚であれば「金閣寺」のような日本建築が構えるところ、ドーム建築です。よく考えるとものすごい発想です。当時にして当然、保守的な反対意見もあったのでしょうが、そんなことはものともせず、「やる」というのがいい。
庭園をそぞろ歩くと、公会堂さえ視界に入らなければこのように通常の日本庭園。この庭園、もともとは常陸笠間藩主本庄氏により元禄年間に築造された、隅田川の水を導いた世界でも数少ない汐入回遊式庭園ということで、自然のしくみそのものを借景したこれまた革新的な庭園である。
そしてこの「両国公会堂」。日本庭園とは相容れない、どちらかというとロシアのクレムリン宮殿や中東のモスクを感じさせる、非常に前衛的な香りを醸し出している。
庭園や公会堂のその建築コンセプト自体にも新鮮な驚きを禁じ得ないが、驚きはそれだけにあらず。左写真は庭園の塀ですが、コンクリートの上に鱗状に洋瓦が配列されている。
このディティールひとつひとつを流さず、新しい表現を世に問うていく姿勢がいい。まさに「芸術を戦った痕跡」といえるのではないだろうか。
両国公会堂のほうに回ってみる。
すでにこの建築物の時間は止まっていた。平成13年3月31日をもってこの建築物の正門にはベニヤ板で仕切られ、外界からの全てのものを受入ることをやめた。
時間と空間の「ひずみ」の中で、消滅することも、はたまた再び呼吸することも許されずただそこに佇む両国公会堂になぜか胸を熱くした。世の中から排斥されてもなお、そこに存在しつづけなければならない現実、しかしその存在すら忘れ去り、存在に気づこうともしない周囲の時間、空間。一流の建築物に都会の孤独を見るとは思わなかった。この孤独感こそ、現代の我々に必要なものになってくるかもしれない
MAP