旧両国駅舎が2016年11月25日、「‐両国‐ 江戸NOREN」としてオープンした。12の飲食店が連なるオシャレスポットになったようだが、この旧両国駅、ビアホールになったり、居酒屋チェーンに身をやつしたり、非常に変幻自在ぶりがDIY建築革命団カッパドキ~アに多大な影響を与えているが、今回はそのひと昔前の姿をメモリアルしてみた。昭和4年建築の素晴らしい洋風建築であるというのも理由のひとつだが、なんと言ってもこの駅の持つ数奇な運命それ自体が「芸術」といえるからだ。
明治37年の開業以来、この瀟洒な建築物は内房・外房線の起点として、房総方面への玄関駅を務めていた。ところがその後、総武本線が東京駅地下へ乗り入れることで両国駅は単なる通過駅となり、急行電車の停まらなくなったそのホームは資材置き場に。そしてこの洋風駅舎は放置されていたというから驚きだ。通常こうなってしまった場合、建物の運命としては「取り壊し」というのが世の常であるが、やはりこの建築物を取り壊すのは惜しいということであろう、その後なんとビアホール(ビアステーション両国)となって甦ったのだった。
期間限定のイベントなどではなく、部分営業でもなく、駅舎自体の機能が完全に消失し、ビアホールになってしまったという類い稀なる建築物がこの両国駅舎なのだ。駅員の代わりにビアホールの店員。改札の代わりにレジでお勘定なのである。蛇足だが、現在は「ビアステーション両国」という店も既になく、民間の居酒屋チェーンが跡を受け、本社を同建物に移しての営業を開始していた。その後、2016年にJRがふたたび、「‐両国‐ 江戸NOREN」として再スタートさせたようである。 |
価値ある建築は皆に愛され、なんらかの形で後世に引き継がれていく。ヨーロッパに見られるようなこんな素晴らしい建築物と人間との付き合い方にカッパドキ~アは胸を熱くする。ただ、そこは資本主義社会。何か役割を持たなければ廃墟となってしまう。しかし、房総の総元締駅であったこの洋館型駅舎の第二の人生が、まさか居酒屋チェーンになるとはお天道様でもわかるまい。定年退職後、年金も心もとなく、何気なく始めたバイトが「今日も一日―! お疲れ様でしたー!」「はい、喜んでーっ!」と声を張り上げ、乾杯の音頭を取ることになろうとは、といった心境だろうか。かつて通勤していた側、通勤客を運んでいた側がともに居酒屋関係者として同じ目線に立ったというオチがここにある。諸行無常である。 |
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