川崎市に、徒歩でしか通行できない長大な地下トンネルがあるのを発見したのでレポートしてみた。 海沿いの工業地帯の真ん中、「ちどり公園」なる小さな公園の一角に、なぜか地下鉄の駅の入り口のような構造物が口をあけている。 もちろんこんなところに地下鉄などと通ってはいないのだが・・・。 |
「海底トンネル歩道」。 聞き慣れない歩道である。 海底トンネルともなればおそらく10メートルや20メートルという長さではないだろう。かなりの距離だと推測されるが、その距離を歩くということなのだろうか。 |
右にスロープらしきものが見えるので、実際にこの「海底歩道」を探検することにしよう。 |
本当に何の変哲もない、地下鉄の入り口のような階段である。 |
正面には曇ったガラス。東京湾の工業地帯の真ん中であるにもかかわらず、かなりのどかな風景である。
公園の真ん中にこの構造物はあるのだが、公園一帯にはなぜか猫(捨て猫と思われる)が大量に生息している。公園内で釣りをしている人々から、おこぼれをもらっているようだが、それにしてもここは猫の一大繁殖地という一面もある。 |
「地下トンネル歩道」入り口。のどかな風景の公園とは裏腹に、ここからは人工的な空間が始まる。 |
人工的な空間への入り口を感じさせる文章である。 「人道」・・・・。 新しい言葉である。今までは確か「海底トンエル歩道」だと思ったのだが、ここからは「人道」である。本当に、ここは車両などは出入りできない狭い入り口である。 |
自動ドアを入ると、さらに人工的で無機的な空間が続いている。
誰一人いないこの空間に、数メートルおきにこうこうと蛍光灯がついている。 勾配は続き、海底付近までまるで深海へ引きずり込まれるように下っていく。 |
ようやく平坦な道となるが、なんと向こう側がかすんで見えない! 一体何メートルあるのだろうこの「人道」は!?かすんで見えないほどの距離、その間ずっと、数メートルおきに照らす蛍光灯。そして監視カメラが目を光らせている。がしかし、全く人通りは無い。延々とこの風景が、いつ果てるとなく続くのだ。サイバーテクノな空間である。外の公園の、あの猫たちののどかな様子とあまりに好対照な空間に、戸惑いを隠せない。 |
歩いても歩いてもこの風景である。自分が全く同じ場所にいて、足踏みをしているような錯覚に陥る。
気が付くと前も後ろもこの風景になっている。 怖い! ここから永遠に出られないのではないかと思ってしまう。 どこかにセンサーがついているのだろうか、人道内(?)アナウンスがけたたましく繰り返し流れる「ここは歩行者専用道路です!」「自転車は降りて通行してください」 こんなに誰もいなくても、絶えず見張られている感覚、そして、前方がかすんでいるほど遠いのに、誰もいないのに、自転車を押して歩く指令を出し続ける館内放送・・・・。やはり道考えてもここはサイバーパンクな空間としか言いようがない。 |
途中、退避用の金属製扉があった。扉の向こうからは自動車の走行音。
実はこれは避難路へのドアではなく、この「人道」自体が隣の車道の退避路のようだ。 写真を見てわかるとおり、この退避用の「人道」の全長は1キロ。こんな長大な構造物だったのだ。 |
なんとかサイバーパンクなダークワールドから、一般社会に回帰できた。 ここははっきりいってかなり特殊な空間である。人間疎外・孤独・無機質といった冷たい、機械じかけの世界である。浮世の悩み、しがらみに押しつぶされそうになったときに、ここを訪れてみるのもいいかと思う。水も草も花もない。宇宙空間でひとりぼっちで漂う寂しさと心地よさが必要な時期。人生に必ずあるそんな時期に訪れてみたい場所である。そこにはあなただけの「無」が待っているかもしれない。 |
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